大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成4年(ネ)763号 判決

控訴人

株式会社産通オリエント

右代表者代表取締役

島本一幸

右訴訟代理人弁護士

吉野正絋

被控訴人

伊那信用金庫

右代表者代表理事

米山正夫

右訴訟代理人弁護士

長谷川洋二

被控訴人補助参加人

宮川電具株式会社

右代表者代表取締役

宮川昇

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の本訴請求を棄却する。

3  被控訴人は控訴人に対し、四三八五万四三七八円及びこれに対する昭六一年八月一五日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は、第一、二審を通じて本訴反訴とも被控訴人の負担とする。

二被控訴人

主文同旨

第二事案の概要

本件訴訟の事案の概要は、以下に記載するほか、原判決事実及び理由欄第二事案の概要記載のとおりである。

一原判決三枚目表四行目の「納入期限を昭和六〇年四月一〇日、」を「設備一式の納入期限を昭和六〇年四月一〇日、完成時期を昭和六一年五月三〇日、」に改め、同九行目の「乙第八号証、」の後に「第一一号証」を加え、同一〇行目から一一行目の「納入期限を昭和六〇年八月二六日、」を「設備一式の納入期限を昭和六〇年八月二六日、完成時期を昭和六一年五月三〇日、」に改め、同裏四行目の「被告代表者本人」の後に「、弁論の全趣旨」を加え、同六行目の「本件第一の契約」を「本件第一プラント契約」に、同七行目の「本件第二の契約」を「本件第二プラント契約」にそれぞれ改め、同九行目の「原告は、」の後に「本件第一プラント契約につき昭和六〇年二月二六日、本件第二プラント契約につき同年五月二一日、」を加え、同四枚目表二行目の「であったが、」を「であり、控訴人の代金支払条件は、中国から入金しだい同じ割合で宮川電具に支払うというものであったが、」に、同八行目の「拒絶された」を「拒絶された。しかし、控訴人は、中国側から契約金の一部につき支払を受けられなかったにもかかわらず、宮川電具に対しては各契約金の八五パーセントに当たる残金を支払った」に、同行の「甲第一二号証」を「甲第一一号証」にそれぞれ改め、同九行目の「被告代表者本人」の前に「第八号証、」を加える。

二同四枚目裏九行目及び同五枚目表三行目の各「本件第一の契約」を各「本件第一プラント」に、同四枚目裏一〇行目及び同五枚目表三行目から四行目の各「本件第二の契約」を各「本件第二プラント契約」にそれぞれ改め、同五枚目表六行目の「原告は、」の後に「本件保証契約は、債務の履行の遅延あるいは不完全による損害賠償についてのものではなく、あくまで前受金の返還についての保証であり、」を、同行の「宮川電具」の前に、「前受金と対価関係にある債務を履行しなかった場合、すなわち、」を、同八行目の「船積するまで」の後に「、すなわち、本件第一プラント契約については、昭和六〇年四月一〇日を期限として横浜市所在の株式会社宮島組の指定倉庫に納入するまで、本件第二プラント契約については、同年八月二六日を期限として日本通運株式会社に納入するまで」をそれぞれ加える。

第三争点に対する判断

一本件各プラント契約の成立及びその履行状況等の経緯については、以下に記載するほか、原判決事実及び理由欄第三争点に対する判断一、二の説示のとおりである。

原判決五枚目裏三行目の「、第一〇」を削り、同七行目の「納入し、」の後に「昭和六一年五月三〇日までに、」を加え、同九行目の「(なお、」から同六枚目表一行目までの全文を削り、同二行目の「右期限」を「右納入期限」に改め、同九行目の「甲第九号証、」の後に「第一三号証」を、同一〇行目の「被告代表者本人」の後に「、弁論の全趣旨」を、同裏一行目の「納入し、」の後に「昭和六一年五月三〇日までに、」をそれぞれ加え、同三行目の「(なお、」から同五行目の「できない。)」までの全文を削り、同行の「期限」を「右納入期限」に改める。

二本件保証契約に基づく請求の成否について判断する。

1  証拠(〈書証番号略〉、証人宮川昇、同桑原良三、控訴人代表者本人、弁論の全趣旨)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 控訴人は、本件各プラント契約につき、宮川電具から各前払金の支払を求められたが、高額な金員を事前に支払うことを危惧し、宮川電具の主たる取引金融機関である被控訴人の保証を宮川電具に求め、いずれも控訴人の側で文案を作成して〈書証番号略〉を宮川電具の代表者である宮川昇に交付し、同人がこれを被控訴人に示してその内容の説明を行い、この説明内容に従って被控訴人はこれに記名捺印をし、控訴人と被控訴人との間では直接交渉をしたことはなかった。〈書証番号略〉の契約書の表題は「前受金返還保証書」とされ、その内容としては、おおむね「宮川電具は中国に納入する設備の設置工事を期限内に完了させること、もし、この工事が遅延し、あるいは困難となること等によって、控訴人から前受金の返還を求められ、宮川電具がその返還を遅延した場合には、保証人である被控訴人がこれを履行する。」という趣旨の記載がされていたが、被控訴人としては、この文言だけからでは保証契約が終了する時点が明らかではないとして、この点について宮川昇に確認したところ、宮川としては、控訴人が船積前に中国側から受け取る契約金の一五パーセント相当額が本件前受金として宮川電具に支払われるものであり、船積が終われば、その時点で中国側はその金員の返還を求めることができなくなるので、その船積によって実際上本件前受金を返還するということはなくなると考えていたことから、船積により保証が終了する旨を被控訴人に説明し、被控訴人はこの点につき控訴人に確かめないまま、本件保証契約書に記名捺印をした。

(二) その後、中国側から控訴人に対して契約金の一五パーセント相当の前払金が支払われたものの、前記のとおり、第一プラント契約については宮川電具の納入が大幅に遅延し、また、第二プラント契約については検収すら行われるに至らず、このために中国側から残代金の一部の支払が拒絶される事態となった。控訴人と宮川電具との間の本件契約では、控訴人の宮川電具に対する支払は、控訴人が中国側から前記の支払条件で代金を受領した後に行うことになっており、控訴人としては、宮川電具の納入又は工事の遅延を理由として中国側から代金の一部の支払を受けられなくなったときは、宮川電具に対しても、その分の代金支払を拒絶することができる立場にあった。しかし、控訴人は、宮川電具から支払を頼まれたこともあって、契約金の一五パーセント相当額については本件保証契約により被控訴人から支払を受けることができると判断したことから、宮川電具に対する支払を留保することなく、残代金全額を宮川電具に支払った。

2  以上の事実によると、本件保証契約による被控訴人の保証が宮川電具の船積によって終了するものであったとの被控訴人の主張は、被控訴人の一方的な理由にすぎず、〈書証番号略〉の文言に照らしても、控訴人との間において右主張のような保証の限定をする合意が成立したとは認められない。

また、本件保証契約が、本件各プラント契約の終了によって前受金の返還義務が生じた場合にだけ、保証の責を負う趣旨のものであったと認めるべき確かな根拠も見当たらない。

3しかしながら、右1(二)で認定したところによれば、控訴人は、宮川電具の履行遅滞あるいは不完全履行を理由として中国側から契約代金の一部の支払を受けられなくなったものであり、宮川電具との間の約定からすると、宮川電具に対する残代金(少なくとも中国側から検収後に支払われる一五パーセント相当額)の支払を拒絶するかあるいは保証金返還請求権と対当額で相殺をして、債権債務関係を処理することができたのであり、また、この処理を行うこと自体が困難であったという特段の事情も認められないところである。しかるに、控訴人は、本来の契約当事者である宮川電具との間において右処理を行わず、保証人である被控訴人から回収することを考えて、あえて残代金全額を宮川電具に支払い、その上で被控訴人に対して実質上その返還を求めているのである。このような状況は、本件保証契約において予定しなかったところというべきであり、当事者の合理的意思解釈と公平の原則からしても、保証人が責任を負うべき範囲を超えると解するのが相当である。したがって、本件事実関係の下においては、控訴人が宮川電具に対して有する保証金返還請求権について、被控訴人に対し、本件保証契約の履行を求めることはできないといわざるを得ず、その余の点につき判断するまでもなく、控訴人の主張は理由がない。

なお、右の点は被控訴人が明示的には主張していないが、本件保証契約の趣旨は原審以来の争点であり、結局は法的判断の問題であると解される。

三以上の次第で、被控訴人の本訴請求は理由があり、また、控訴人の反訴請求は理由がなく、原判決の結論は正当であるので、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 山崎潮 裁判官 杉山正士)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例